3月6日金沢:北國新聞赤羽ホール・3月9日東京:紀尾井ホール
RYU Project デュオリサイタルに寄せて

私のホームページにお出で下さいましてありがとうございます。

ドイツの「インターナショナルゾリステン」でデビューして早くも5年目になります。
その間主としてヨーロッパの各地でオーケストラとの協演、フェスティバル出演、リサイタル、国際交流演奏会、フォーラム参加、テレビ・ラジオ出演等、様々な経験をさせていただきました。
国によって、地方によって、又共演者の年齢によって様々な音楽のとらえ方やアプローチを知りました。
打ち合わせの時に深い哲学論から入り、ほとんどそれのみで本番に臨み、見事な論理空間を描いたドイツ人、「一緒に燃えよう!、ブラームスでは熱く語るから!」と、本番でいきなりテンポを今までになく大揺らしに弾き始めたロシア人ピアニスト、この時は拍手が25分鳴り止みませんでした。「君は興奮するとテンポが速くなるから落ち着いたテンポで行こう」といいながら私が入る前に自分が興奮して最高スピードで棒を振り会場中を大興奮・大感動の渦に巻き込んだベテラン指揮者・・・。
アンジュといっしょのコンサートは日本の情緒が加わって新たなひらめきが湧くよ、とよく言われます。いい意味で言われるのです。私は特に意識していないのですが・・・。
コンサートというものはその場の出会いで、演奏者もお客さまも含めてそこにいるその空間に何を投げかけられるかが勝負、と体感しました。
そして「いつも時代の中に音楽で前向きな発想を投げかけて行くのが音楽家の使命」とその中で教わってきました。
私自身、かつて人の愛と音楽のエネルギーで救われた経験があります。まだ僅かな人生経験ですが修行を重ね、先輩達に負けない心の糧、心のエネルギーとなる音楽作りに励むつもりでおります。

今回は各時代に新しい生き方、新しいエネルギーを投げかけてきた勇気ある作曲家の作品をとりあげました。
共演のイヴ・アンリさんと一つ一つの曲についてスタンスを考えています。
「演奏というものは一回一回の空間のオーダーメイドのようなもの」と私は捉えています。
今回の演奏のスタンスの一部をお知らせします。

曲についての思い

バッハ:無伴奏パルティータ第2番

私のデビューの時のプログラムにも入れた曲です。終曲のシャコンヌはヴァイオリン曲のバイブルともいわれる名曲です。
この曲を各国で弾いているうちに「すべてを包み込む小宇宙」そして「すべての物を超越する力」をこの曲の中に感じました。
エジプト公演の時のことです。シャコンヌを弾き終わって舞台から降りたらイスラム教の髪を覆った女性が近づいて来て大きな声で泣きました。そして私と抱き合って笑顔を見せました。近くにいた大使館関係者が言いました。「これが交流なのですね・・・」あの時の感動は新たなシャコンヌ感をもたらしました。
曲のちょうど中程に急に静かになる所があります。ここは「すべての事を超越できる瞬間」という感覚が最近感じられます。心が静かになるのです。すべてを受け入れることができるのです。そして曲の一番最後の音「D(レ)」の音が消える時、「無」が訪れる感がします。禅にも通じているのでしょうか。これらを表すため音質・音程・弓捌き・間、納得の行くものを模索しています。

ベートーヴェン:クロイツェルソナタ

・・・ベートーヴェンの曲は人間にとって最大の応援歌                 この曲を忙しく働く方々に捧げたい

ベートーヴェンにとっても勝負曲だったようです。新しい作曲技法を用いることに恐れを知らないベートーヴェンはピアノとヴァイオリンをまったく対等に意見を述べ合うように扱いました。
共演のアンリさんも私もこの名曲で「現代の戦いの時代に生きる力」を表現したい、と話し合っています。
出だしの所は「戦い前夜の静けさ」のように弾きたいと思います。
私にとってここは「関ヶ原の戦い前夜」を思わせるのです。去年の夏関ヶ原を訪れたのです。17万人もの人間がここで天下分け目の戦いを行ったのだと感慨無量でした。今は何もない静かな平地でした。
アンリさんはもちろんこの戦いの事はご存じありませんでした。私の知る限りの説明をしている内に、ある意味現代も戦いの時代だ、という話になり、この曲を「日夜お忙しく働く方々に捧げよう」ということになりました。
1楽章は激しい戦いの楽章、2楽章は疲れ果てたところから始まります。ここからがベートーヴェンのすごいところです。
ベートーヴェンの得意とするヴァリエーション形式で書かれているのですが、第1ヴァリエーションの冒頭はピアノの誘いかけにヴァイオリンがためらいがちに連続音を鳴らします。小節数が進むうちに次第にピアノの激励に心がなびき、ついにヴァイオリンが歌い始めます。ヴァリエーションごとに実に巧みに精神が活性化されて行きます。3楽章は満ち溢れた力で生きる喜びを歌い上げたいと思います。 この曲はベートーヴェンが2楽章に力を入れすぎて、初演に3楽章の作曲が間に合わなくなってしまいました。他のソナタの3楽章で間に合わせたそうです。
しかも捧げたクロイツェルにはついに一度も弾いてもらえなかったようです。
ここまでの名曲でそんなことがあるのが世の常なのでしょうか。
神様のように思っていたベートーヴェンの人間らしさを知って何故か親近感を覚えると同時に、何があっても不屈の精神はあやかりたいと思いました。
もちろん今回は後に書かれたオリジナル全楽章を演奏いたします。

この曲はお仕事でお忙しい方にこそぜひお聞きいただきたいのですが、夜7時までにコンサートに行くのは日本の仕事事情では難しい、とよく聞きます。
このクロイツェルは最後に演奏いたしますので8時までにお出でいただければお聞きになることができます。ぜひお出かけいただきこの力作をお聞きください。

ラヴェル:ツィガーヌ

ラヴェルも斬新な世界を切り開いた勇気ある音楽家の一人と思います。
古典的には認められない和声使いを用いコンクールに落ちても新しいものを求める姿勢を変えず、非常に濃厚で熱狂的な表現作りに成功しています。
その結果聴衆からは巨匠として認められるようになりました。
「なにか他のよりよきものに到達するためにのみ発展すべきである」と言う考えのもとに[複雑多様ではあるけれども繁雑難解ではない]名曲が誕生したのでしょう。
この曲はロマの中でもハンガリーのロマを描いたものです。 情熱的な生き方をする感性は、フランス人のラヴェルやイヴ・アンリ氏、そして日本人の私にも心揺さぶられる感情です。 ロマの言葉を借りて「生きたいように生きるすばらしさ」を「弾きたいように弾こう」という段取りです。
このような曲は即興性にスリリングな魅力があります。アンリさんは本番中の演奏において突然何かをけしかけるタイプの方です。パリではそこが人気なのです。
私もその場に合った何かを情熱的なロマに負けず極限まで挑戦するつもりでおります。

ショパン:バルカローレ・ノクターン・ワルツ / P. イヴ・アンリ

ショパンはそれまでになかったまったく新しい技法を開発しました。ピアノの開発に伴い上から下まで駆けまわるテクニックと音色の多彩化に挑戦し続け、パリのサロンの仲間たちと共に新しい文化の到来(その中にジョルジュ・サンドもいて女性の台頭なども大きな変化の一つでしょう)を音楽で語りました。
「音楽は言葉で言い表せない部分も語ってくれる・・・ショパン」と言うように今回はショパンの珠玉の名曲でアンリさんが日本の皆様に語りかけることでしょう。
今回の東京紀尾井ホールでの演奏はショパンの愛したピアノ“プレイエル”を使用いたします。日本ではあまり聞くことのできない楽器で、品位の高いシンギングトーンといわれる音色も今回の聞きどころです。

イヴ・アンリさん

日本での公演は久しぶりです。ヴァイオリンとのデュオは前回巨匠ギトリスとの共演で話題になったそうです。残念ながら私はまだ小さくてそのコンサートは聞いておりません。個性と個性がいっしょになり歴史に残る名演だったそうです。 「今回は若いアンジュといっしょです、彼女の意志の強さと美音を活かし、前回とは全く違った演奏をお届けしたい」とメッセージをいただきました。

アンリ:加賀YUZEN

今回のコンサートのひとつの目標、意味深い曲です。
RYUプロジェクト(下記参照)の第1作です。
和の心《詫び・寂び・雅び》とクラシック音楽の融合の試みです。
古典柄の友禅と現代の石川県の産物の生地を作曲家でもあるアンリさんに見てもらい、その移り変わりの様を曲にしてもらいました。
出だしは昔の柄、揺らぎの模様の上に咲く花が昔の日本女性のよう、と静かに歴史の香りを思わせる美しさです。
次に活動的な音型になります。これは現代の生地からインスピレーションを得たもので、現代のアクティブな姿を描いているそうです。
歴史の中の女性像を描きたいと思います。
パリでは今、日本ブームです。ヨーロッパでの演奏も楽しみです。

これからの演奏活動に託した思い

バッハフェスティバル

2009年100年余りの歴史を持つバッハ最大の音楽祭、ドイツのライプツィヒで行われる「バッハフェスティバル」に招聘されました。
夢にまで描いたこの招聘が決まった時は興奮で胸が震えました。
日本人ヴァイオリニストでは初(バロックを除く)の参加、ということで大きな責任を感じております。
バッハがカントルをしていたライプツィヒで一番大きいニコライ教会での演奏です。二千数百席のこの会場は一般のホールとは違った独特な響きがします。祭壇から数歩の所がナイススポットでそこでシャコンヌを弾くと天から特別な声が聞こえてくるような響きになります。演奏している私にも天から指示が降ってくるのです。
共演はバッハの後継者であるユルゲン・ヴォルフさんで最高のオルガンの響きに包んでくれます。
ここでできる限り崇高なバッハを演奏したいと思います。
もしどなたか日本からバッハフェスティバルにいらして下さったらとてもうれしいのですが・・・
JTBさんがツアーを組んで下さいました。
演奏会が無事終わったらご一緒に周辺を観光できたらと思います。
実は近郊のアイゼナハはバッハ、ルターの育った街で、私が「音楽の道に生涯を捧げたい!」と決意をした地なのです。
音楽家でもあったルターが「一番たくさんのことを伝える事ができるのは音楽です」と言っていることを知り、又両親を失ったバッハが初めて行った音楽活動はお葬式や結婚式で“人のために歌うこと”だったと知ったのです。
人の愛とバッハで救われた私は“今度は人のために弾こう”と涙を流して決意をしたのがこの地のヴァルツブルグ城の丘の上なのです。
思い出の地を再び訪れたいです。
その地の限定生産ビアーの乾杯の味も忘れられません。
たくさんの方を感動のこの地にご案内したいです。
プロムシュテット、オピッツ、ゲヴァントハウス管弦楽団、と世界的な演奏家に交じっての初舞台です。どうぞ応援して下さい。

問合せ先 JTBライブデスク 03-3572-5890まで

プロジェクトRYU

「クラシック音楽界に新しい息吹を」と折に触れヨーロッパの音楽関係者達と話し合っておりました。
クラシック音楽はヨーロッパを中心に発達してきたものですが、バッハがよく使ったサラバンド、シャコンヌも南米のリズムが元だ、という説があります。トルコのリズムが入りトルコ行進曲ができ、南米からハバネラが入り、そしてアメリカからジャズの要素が加わり、と異国の文化と交ざり合って高まってきたのです。
日本文化が大人気の今、日本の風情《詫び・寂び・雅び》を取り入れた新しい息吹をと、クラシック音楽の開発を始めたのがRYUプロジェクトです。
ヨーロッパ人は日本の文化にとても興味を持っています。
でもまだ日本のほんの一部の文化しか伝わっていません。
「世界のことば音楽」で世界中の人たちと交流を深め、伝統の上に新たな発想が乗ったより良い形のクラシック音楽を追求して行きたいと思っています。

音楽の力の大きさを知った今、その力でいろいろな事をやって行こうと決意いたしました。
まだまだ勉強すべき事の多い私ですが皆様のお力をお借りしながら一生懸命成し遂げて行きたいと思っております。
どうぞこれからもよろしくお願い申し上げます。